サンキング開発ヒストリー

  • (その12 8月の化粧品 )

父はここ数年、緑内障が進み1年程前から両眼ともほとんど光を失ってしまいました。
右眼はもはや絶望的で左眼がかろうじて光を感じる程度です。
視野がかなり狭くなっていた事を本人はかなり以前から自覚していたようです。
実際、緑内障と診断されたのは3~4年前で、
眼科医のところにも定期的に通って眼圧を測ってもらったり目薬をもらったりと治療はしていたようです。
医者の不養生と言う言葉がありますが何故、ここまで急に病が進行したのか父ははっきり語りません。
昨年、新横浜の書店にいる時、突然視界が閉ざされ保護されました。

その後、手遅れの状態ではありましたが何度か病院にも通いました。
眼が見えなくなった当初、父は何度かパニックを起こしました。
若い頃から遠視と言われるくらい視力が良かったから無理もないと思います。
ある日、突然暗闇の中に放り出されたような気持ちになったのでしょう。
朝、目が覚めても暗闇の中にいる訳ですから。
時間の感覚もいっさい失ってしまい朝昼晩の区別さえ付かなくなりました。
「息が出来ない」
時に脈拍、血圧が上がりそのように訴えては救急車に何度か出動してもらいました。
連れ合いに先立たれ随分寂しい思いもしていたのでしょう。
暗闇の世界で孤独とストレスが波のように押し寄せていたのかもしれません。

昨年の暮れ頃からやっと落ち着きを取り戻し自分が視力を失った事を受け入れたようです。
現在は施設で24時間介護ヘルパーの方にお世話になっています。
眼が見えないのでトイレに行くのも食事をするのも一人ではままならないからです。
1日の半分をベッドで過ごし、ラジオを聴いたり、
時に車椅子でロビーまで連れって行ってもらいお茶の時間を楽しんだりしています。
最近は心の平静を取り戻し、これまでに無いくらい穏やかな表情になりました。

ある晴れた3月の日。春の日射しがあたり一面に降りそそぐ午後、僕は横浜に住んでいる父のもとを訪ねました。

僕は「Sun King」を鈴木喬に作ってもらった事を父に報告しました。
何故、この美白ブームと全く逆を行く日焼け用ローションを作ったのか、その経緯を父に話しました。

父は黙って僕の話しを聞いていました。

暫くして,父がゆっくりと語り始めました。
「今のアジア、特に韓国や日本の化粧品美白ブームは過剰な気がする。
その昔、自分は紫外線を否定したがそれは極端に身体を焼きすぎることへの警鐘だった。
では、紫外線 = すべて悪かといえばけしてそうでは無い。
窓から入って来る紫外線はカーペットや壁紙への殺菌効果があると言われている。
布団だって干すだろ?
つまり、それはハウスダストやダニから人体を守る事に繋がる。 もしかしたら最近の子供たちにアトピーが多いのは親が紫外線から極端に子供を保護しすぎる事に起因しているのかもしれない。
それは次世代の研究者たちの課題にしてほしいが。。
また、紫外線は皮膚におけるビタミンDの生成をしたり骨軟化症を助ける作用もあるとも言われているだろ?
地球上に生を受けている限り紫外線と生物、植物は断ち切れない関係にあるからね」

そう言って一息つくと父が言いました。
「ところで今日は天気どうだ?」
「晴れてるよ」
僕の言葉に父は頷くと
「じゃあ、今日は外に散歩に連れて行ってくれ」と答えました。

部屋を出て冷え冷えとした長い廊下を僕は父の車椅子を押しながら進みました。
ロビーを抜け自動ドアの玄関から外に出るとそこは眩しいばかりの春でした。
サングラス越しに透けて見える父の目は何を映しているんだろうと思いました。
これまでの80数年に及ぶ人生での邂逅がめくるめく甦っているのだろうか?
ふとそんな事を考えました。

「太陽の匂いがする。。」
父が小さく呟きました。
「え!?」
「目が見えなくても風の中に太陽の匂いは感じられる。」

父は静かに空を仰ぎ大きく、ゆっくりと深呼吸をしました。

「忘れてならないのは、太陽光の何よりも素晴らしい効能はメンタルに影響するって事だよ。
大学の時、脳の研究をしてただろ?その時学んだんだよ、体内時計を調整出来るものって実は太陽光だって。
人間の体は本来体内時計によって日の出とともに起き、昼間活動し、夜は暗くなったら休息するようにできている。
しかし現代は便利になり、昼夜問わず活動する人が増えたことで24時間の体内リズムが狂いがちだ。
すると自律神経が乱れ、精神的に不安定になり病気を招くことがあるんだよ。
朝日を浴びることで体内時計が整う。四季の感覚や自然のリズムをもっと大切にしたほうがいい。
人は夏の日を浴びることで元気になる。現代人こそ、太陽光を浴びて体内時計を整えるべきだ。

つまり、肉体と精神のバランスを保ってこそ人は健康と言える。紫外線ブロックのし過ぎ、逆に過剰に浴びすぎること、 どちらも極端にならずバランスを保って紫外線と付き合っていくべきだ
Slow Tanning、実に良い提案だ。
それを肝に銘じてに『日焼け用ローション』をリリースするならそれは間違ってない。
オフィス オーガスタから出すってのも面白いよ。まさに8月の化粧品だから」

60年近く「脳と皮膚科学」の研究に自身を捧げてきた父の助言に僕は改めて納得しました。
夏フェス用の化粧品をリリースする。
8月の化粧品 = Sun King

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