サンキング開発ヒストリー

  • (その10 化粧品作りに生涯を捧げた研究者たち )

僕は皮膚臨床薬理研究所(ヒフケン)の鈴木喬のもとを訪ねUVブロックしながら日焼けが出来るローションかオイルは作れるか訊いてみました。
「今は、紫外線=悪と言う定義がまかり通っているからどこのメーカーも『日焼け用ローション』なんてものはほとんど出してないと思う。 もはや日焼け用のローションやオイルは需要が無いよ。紫外線A波とB波をブロックしてるのは日焼け止め。 昔、S社で出してたサンオイルなんかはこれをブロックしないから良く焼けるんだよ。 だから、オイルとか化粧水を塗れば多少紫外線から肌への負担が軽減されるから、それで代用すればいいんじゃないの」と返されてしまいました。

紫外線はA波、B波、C波に分類されます。C波はオゾン層までしか届かないからここでは問題ないとして、 人体に影響するのはA波とB波。 前者(A波)はサンタンと言って肌を褐色にします。肌の弾力を司る真皮層にまで届くためコラーゲンを壊わし 水分を奪います。 よってシワやたるみの原因を引き起こし、肌老化を早めると言われています。

そんなA波の防御効果を表すPA値(Protection grade of UV-A)が記載され始めたのは1996年の事だそうです。 しかしながら、現在ですらB波ほどに国際的な統一見解がかたまってないと言うのが事実のようです。 そう言えば海外のサンスクリーンでPA値を記載したものってあまり見かけた記憶がありません。 日本人はとにかく紫外線にナーヴァスだし、防御と言う事に於いては何か指標があれば安心するのでしょう。

そして後者(B波)はサンバーンと言って肌を赤くしたり、火ぶくれ(火傷)を起こすなど肌を傷つけ、 シミやそばかすの原因になります。 また、過剰に浴び続けると皮膚の細胞内にあるDNAにダメージを与え人体への悪影響があると言われています。

SPFに関しては今や国際的な数値になっていますが、父が日本にこの測定法の概念をハーバード大学研究室から持ち帰った70年代当時、 鈴木ですらこれについてはまだまだ未知の領域であったようです。
「私が森川先生から初めてSPF値について聞いた時は何の事だろうと思った。
森川先生はアメリカでこのサンケア指数(紫外線防護係数)の研究実験をボランティアの人たちに頼んでやってたそうだ。 軍の人や学生、囚人にまで協力してもらいIN VIVO(イン・ビボ)の実験を行っていたらしい。 森川先生がアメリカからこのサンケア指数を測るをIN VIVO実験を持って帰って来たのは70年代前半だった。 S社で人を寝かせてIN VIVOって測定実験をやってたよ。」

「IN VIVO(イン・ビボ)ってなんですか?」

聞き慣れないその単語に鈴木の横でビーカーを振っていた伊藤建三が答えてくれました。 (伊藤建三も鈴木喬と同じくS社で化粧品・医薬品開発において数々のヒット商品を手掛けた開発者です。)
「IN VIVOと言うのはラテン語で『生体内で』と言う意味。つまり生体、人体を使って測定したり実験をする事。 ここでは人が太陽光に当たり肌が赤くなるかならないかの判定法を意味する。 それによって肌が赤くならないよう美白剤や抗炎症剤を入れて処方をする。 しかし、人の肌と言うものは様々で、すぐ日に焼けて赤くなる人もいれば,同じ条件で日に当たっててもほとんど日焼けしない人もいる。 赤くなる人もいれば褐色になる人もいる。メラニンを作る能力が人によって違うからね。
いま、SPF値はこのIN VIVO (生体)で検出する事が義務づけられてる。でも、人によって肌質の差がある訳だから客観的な測定法とは言えない。
一方、IN VITRO(イン・ビトロ)って測定法がある。意味は『試験管内』でと言う意味。 簡単に言えば機械的(例えば人工光などで)にUVの吸収、反射の度合いを調べる。 だから客観的と言える。数値的には正しいものが出る。しっかりした機関では両方で測定してるよ。 まずIN VITRO(機械)で数値を測定し、次にIN VIVO (生体)を選ぶのが良心的な検査法ですよ。」

「すべての機関や化粧品会社が両方の測定法をやってる訳じゃないんですか?」

「測定機関だってさまざまだよ。しっかり測定するところもあればけっこう安易に測定してるところもある。 測定機関やその機能を持つ化粧品会社が日本には2000社くらいあるらしいけど実際に良心的にやってるところはどれくらいかわからないよ。 同じサンプルを提出しても機関によってデータが違うことがある。 だからこそ、キャリアがあって信頼出来る機関を選ばなきゃならない。それが化粧品開発者の責任だよ。
例えば『美白』に関してもIN VITRO(機械)で薬剤選定し、『問題ない』と判断したものをIN VIVO(生体)で測定し、 安全性を確認した後薬事申請する。申請が通った後、初めて商品化する。 両機関を使う訳だから許可を取るまでに時間もかかれば費用もかかる。化粧品を作るって知識も含めてそれくらい細心の注意を払うもんなんだよ。 皮膚臨床薬理研究所はその名前の通り臨床、薬理と言う責任を持って化粧品を作ってる。」

僕は化粧品作りに生涯を捧げた研究者たちの話に強い感動を覚えました。 その話しを聞いてますます彼等にこれまでにない安全な「日焼け用ローション」を開発してもらおうと思いました。

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